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お久しぶりです!五十瀬エイビです!!

すみません、ずいぶん間が空いてしまいました・・・・
前回かいた甘陸の続きを書こうと四苦八苦、七転八倒しているうちにいつのまにか8月になりました・・・・・・・アハッ/(*´∇`*)
本当、すみません・・・・
遊びに来てくださるかたがた、ありがとうございます・・・!!

前回の続きすごいねっていたくせに、魔法のようにスルっとできあがったのはパラレルでした。
拒食症陸遜と、イタリアンシェフ甘寧殿のお話です。
陸遜の名前が一文字もでてませんが、陸遜です。

最近なんだか文章書くのが下手になっていて困ってますが、楽しんでいただきたい気持ちを込めました!
よろしくお願いいたします\(゜ロ\)(/ロ゜)/


(え?いまどき??)
 
その料理人はひどく驚いた。
一度視線を外して、もう一度見てみる。
もしかしたらディナータイムで忙しすぎた頭が幻覚を見せているのかもしれない。男は二・三度頭を振ってから、目を開けた。
 
やはり、いる。
 
行き倒れである。
この時代に行き倒れである。
 
その行き倒れは男のアパートへ続く入口で行き倒れている。正確にはそこへ至る前の道路で行き倒れだ。うつぶせで、何も持たず、全く動かない。
警察に通報しようか、と男は携帯電話に手を伸ばした。
(しかし、どう説明すればいいのか)
男は少し考えて、うつぶせで全く動かない行き倒れを観察することにした。警察に電話するにしても「家の前で人が倒れてます」ではあまりに情報が少なすぎるだろうし、警察ではなく状況によっては救急車を呼んだほうがいいかもしれない。
倒れている人の顔を見ようと回り込んだ男は驚いた。ずいぶんと身なりがいい。てっきり貧乏が重なって、食べるものもなく行き倒れたのかと思ったからだ。
(事件か?)
ドラマによくある、犯罪的なものに追われて逃げて逃げてここで倒れた、という展開はどうだろう。
しかし外傷はない。
きているものを見るかぎり、おかしい点は見当たらない。倒れているくらいで。
顔を確認したら、衰弱しているものの殴られるなどの形跡はない。
(ん?高校生か)
行き倒れ者はずいぶんと若かった。
年のころにして10代後半であろう。
 
謎ばかりのこの少年に少し興味がわき始めた時、その少年の腹の虫が鳴った。
 
 
 
6畳2間の古いアパートに家庭的なにおいが充満している。
男はこのにおいが好きだった。おいしいものを食べられるという予感に満ちた期待と、作り上げる達成感が同時に味わえるからだ。
畳の上に転がしている先ほどの怪しい少年に目をやると、食べ物のにおいに鼻孔が刺激されているのか、少しばかりの反応を示している。
「う……」
眉を寄せた少年はゆっくりとまぶたを開いた。
「お、起きたか」
男が呼びかけると、勢いよく起き上がって周囲を確認した。
栗毛の髪が左右に揺れる。その絹のような上質さはこのオンボロアパートには大層不釣り合いだ。
少年は後ずさり、警戒するように男を睨みつける。
「ど、どちらさまですか」
この様子では自分が倒れて、通りすがりの人に救助されたとは露ほども考えていないだろう。
不審者を見る目で睨まれている男は、警戒を解くように人懐っこい笑みを浮かべた。
「俺は甘寧。安心しろ、別にお前を誘拐したとかじゃねぇから」
「はあ」
「お前覚えてる?俺の家のまえで倒れてたんだぜ」
少年は、え?という顔をして、その直後に苦虫をかみつぶしたように顔をゆがめた。
「それは、とてもご迷惑をおかけいたしました」
(わりと倒れてる、って反応だな)
きれいにお辞儀をする少年だったが、その様子はどこかよわよわしい。
腕や首など、どこもかしこも細いそれが決定的な印象をつけているのだろうか。
「介抱いただきありがとうございました。いずれ改めてお礼に伺います、ごきげんよう」
「ごきげんよう、って」
どこの貴族だよ、と内心でこぼして、ふらふらと帰ろうと玄関を目指す少年の腕を掴んでとめた。
(なにこの細さ)
甘寧が少し力を入れたらぽっきり折れてしまいそうだ。
「べつに警察とか呼ばねえから、飯だけ食ってけ」
わざわざこの少年のために料理を作ったのだ。食べてもらわなければ気が済まない。それに先ほどの彼の腹の虫はまだおさまっていないはずだ。
「遠慮します」
「べつに金巻き上げようっわけじゃねえし」
こわもての自分をよく知っている甘寧は、頬を掻きながら困ったという表情を作った。警戒している子供をどうなだめればいいのだろうか。
ほだされそうもない頑固な白い顔が甘寧を睨みつける。
頬がこけている、と甘寧はきづいた。
(ぜってぇ食べさせる!)
食べなければこの少年は死ぬのではないだろうか。
悪い直感にしたがって、甘寧は必死にそのか細い腕を握りしめた。
「命の恩人の料理が食えないってか」
勢いよくすごむと、少年は言葉に詰まった。
「御恩は重々承知のうえです。お礼はいずれしかるべき時にさせていただきますので……」
もごもごと、口ごもる少年はおそらく義理がたい性格なのだろう。命の恩人、に反応しているようだ。
しかし、どうしても食べたくないと少年の顔が物語っている。
「俺へのお礼は飯を食ってくれればいいよ」
「しかし、」
「味は保証するぜ?俺、シェフだから」
「そうではなくて、」
「あんま胃もたれしないようにリゾットにしてみたんだけど、お前どう?」
「どうと申しますか……」
「な?お願い」
たたみかけるように逃げ場をなくしていった甘寧は、最後にかわいらしく首を傾げてみた。
少年の眉が下がり、降参した兵のように暗く沈んだ。
「……いただき、ます」
「オーライ」
そうときまれば、と甘寧は少年の腕をひっぱって和室の真ん中のちゃぶ台へ座らせた。
しかしなぜ飯を御馳走してあげるだけなのにああも嫌がらなければならないのか、若干のいら立ちをこめて甘寧はあけっぱなしだった台所の扉を足で閉めた。
完成したリゾットを温めなおすと、ふんわりコンソメとキノコの匂いが漂う。
我ながらいい出来だ、とパスタ皿を片手に鼻をならす。
(あんまり食べらんないだろうな)
と思うものの、仕返しを込めて大盛りでもる。仕上げにクレソンを添えて見た目も美しいキノコリゾットの完成だ。
ダメージを受けた胃にやさしい、栄養たっぷりのご飯である。
作りながら食欲が刺激された甘寧は、同じパスタ皿をもってきてリゾットを盛る。
(一人で食べるよりも二人のほうがおいしいしな)
一人暮らしの甘寧はあまり一人での食事が好きではない。
おいしいものをおいしい、と言い合いながら食べることこそ幸せだとおもっているのだ。
二人分の皿を持って珍妙な客のところにいくと、この世の終わりのような顔をしている。料理を作った人にこんな顔をされるのは初めてだ。
(もしかして評論家並みに辛口評価する人種か?)
あまり苦手な人がいない甘寧の、苦手な人種が評論家である。背中に冷や汗をかきながら、一応大人しく座っている少年の前に皿を置く。
「はい、どーぞ。召し上がれ」
絶望を顔に描いた少年は、それでもスプーンを手に取った。
「いただ、き、ます」
ぎこちなく言い、リゾットをすくい、口に運ぶ。
その動きがすごくゆっくりで、すごくおいしくなさそうに食べる。
一口咀嚼して、またスプーンを動かす。
最悪皿をひっくり返されると思っていた甘寧は(だって食べたくない相手に大盛りでだしたのだ)一応一安心し、おいしくなさそうな表情が気になるが、自分も食べ始めた。
「うん、うまい」
「…………」
このしめじ、知り合いの農家がさーとかコンソメ実は俺が作ったんだぜとか、米もしかしてもっと柔らかいほうが好きか、とか言いたいことが頭の中を駆け巡っては消えていった。
半笑いで甘寧は少年の食事風景を見る。
嫌そうにスプーンを動かすのだが、やめる気配はない。
(なんだ、やっぱ腹減ってるんじゃねえか)
めんどくさい坊ちゃんだぜ、と思うもののやはり自分が作ったものを食べてもらうとうれしくなるものだ。
 
沈黙に満ちた食卓は、少年の重々しい「ごちそうさまでした」で締めくくられた。
食事はエネルギーを補給して元気になるものである。
しかし、少年の顔は真っ青だ。
「え?おま、大丈夫??」
料理人としてその顔は、自分の存在意義を否定されるもどうぜんである。
元気にするためのものを作ったはずが、体調を崩させるなど笑止千万。甘寧は焦った。
「す、すみません……」
か細い声で少年はそういうと、力が抜けるように後ろに倒れた。
「ちょっ」
それを間一髪で受け止めると、真っ青な顔がかすかに苦笑いを浮かべていた。
冷や汗が白い顔を伝っていく。
「わたし、きょしょくしょう……なん、です」
「拒食症!?」
初めてでくわす症例にあわてた。もしかして無理やり食わせたら大変なことになんのか。
青い表情の少年は振り絞るように「それでも、」と続けた。
「りぞっと、すごく、おいしかったです」
そう言い残して少年は意識を失った。
 
 
 
「それが、少年の最期の言葉だった……」
 
 
 
一人、甘寧は重くつぶやいた。
 
 
「って、まさかね!!!!」
全力で否定して、そして途方に暮れた。
この腕の中の少年をどうしたらいいのだろうか。
 
(とりあえず、目覚めたときのためにプリンでも買ってきてやろうか)
甘寧の頭の中では病気=プリンという不動の公式が出来上がっている。拒食症といえどもプリンは食べられるだろうと勝手に結論づけた。
少年を寝室の万年床に寝かし、ため息をついて部屋を出る。
 
ずいぶんやっかいなものを拾ってしまったものだ。
「どーすっぺ」
なにはともあれ、あの少年が起きなければ話にならない。
甘寧はすべてをわきに置いて、コンビニを目指した。
 
プリンを2つ買うために。
 
 
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